「母さん、雨が降ってる」
耳を澄ますと雨音がする。
洗濯物を取り込まなくちゃ、と慌てて外に出たけど、どこにもそんなもの降っちゃいない。
おかしいわね、と見渡すと庭の真ん中に水溜りができていた。
水溜りには波紋が立っていた。
たった一つだけ。
そこから徐々に目線を上げると一滴の雨が延々と降っている。
さらに目線を上げたところでここは庭のど真ん中で何も遮るものなんてないし、見上げればどんよりと曇った空から一筋だけ雨が降っているのであった。
手を翳してみる。
痛い、痛い、こりゃ大雨のようだ。
局地的豪雨って奴かもしらん。
傘を持ってくることにしよう、と玄関に戻り、長靴も履いた。
遮った雫は小気味の良いほどの音を立てて、傘は豪風に今にもひっくり返りそうになる。
水溜りだって随分深そうだ。
覗き込むと傘を持つ手が緩み、背中に雨が突き刺さる。
あっという間に水溜りに飲み込まれ息ができなくなった。
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