7月8日、鱧奈時県警に殺人予告が届いた。
『今晩、針張博人を殺す』
ミミズの這ったような字で書かれた手紙だった。
消印は昨日の物、この予告が正しいのであれば、すでに針張は殺されていることになる。
真偽の程を確かめる余裕もなく、私達は針張の住居を調べ、現場へ向かった。
針張は一人暮らしの男性で、二来夏市のアパートの2階に住んでいた。
部屋には案の定、鍵が掛かっていたので事情を説明し、オーナー立ち合いの元、解錠する。
中には針張と思われる人物がロープからぶら下がっていた。当然、窓の鍵も内側から施錠されており、所謂、密室。おまけに足元には遺書まであったものだから殺害予告さえなければ、自殺と判断されていただろう。
鑑識の結果より、針張の死亡推定時刻は深夜。消印があることから鑑みるに明らかに殺人予告が書かれた時間以降に死んでいることがわかる。
警察は総力を挙げて、部屋の痕跡、及び殺人予告を調べたが、犯人に繋がるものは何も見つからず、この事件は迷宮入りかと思われた。
『今晩、輪黒有子を殺す』
またもミミズの這った書体で殺人予告が送られてきたのは1週間後の7月15日だった。
前回同様、私達は慌てて現場に向かうも、これまた密室に遺書、自殺としか思えない状況だった。
この殺人予告は1週間スパンで続き、どこから漏れたのかマスコミに取り上げられ、警察機構はこの凶悪犯罪者に成す術もなく、無能の誹りを享受していた。
二カ月後のある日、とある男が逮捕された。
罪状は業務妨害罪。
彼はSNSで今晩自殺を決意した人物を見つけては、文をしたため、鱧奈時県警へ送ってくれていたらしい。
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