知らないもの/ショートショート

 小4の秋、下駄箱から上履きがなくなった。

 クラスメイトの八扇くんが一緒に探してくれたけど結局、見つからなかった。彼は「汚いけど」と照れながら自分の上履きを私に貸してくれた。

 小五の夏、水着がなくなった。八扇くんと一緒に探したけれど見つからなかった。

 教科書がなくなった。

 机が赤かった。

 黴たパンを食べた。

 売女だと噂が立った。

 学校に行けなくなった。彼は毎日、プリントを持ってきてくれた。

 県外に受験した。彼はついてきてくれた。

 両親が亡くなった。他殺だった。彼は慰めてくれたけど犯人は見つかる当てもない。

 家が燃えた。彼と暮らすことに決めた。

 今日、仕事を辞めた。

 もう家から一生出なくてもいい。ただ家で彼を待っていればいい。

 八扇由里子、私、今、幸せです。

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