突撃!冥途の土産奪還計画!刺激が欲しけりゃ墓になれ篇!

 突然だが、皆さんはこの自粛生活、如何お過ごしだろうか?

 ちゃんと自粛しているだろうか?

 私はしている、つもりである。私は元来、引きこもりであるし、友達もいないし、口下手だし、社交性も低いし、生きる気力もないし、何故まだ生きているのかと思うほど社会の役にも立たず今をのらりとくらりと生きている人間としての底辺オブ底辺、こりゃてーへんだ、っていう人間なので、ずっと引きこもってるのなんてお茶の子さいさい藤原佐為緋村抜刀斎と思っていた。

 だが、違ったのだ。現実は非情だ。

 刺激が足りない……。人生における刺激が枯渇している……。

 ホント、自分でもびっくりするくらい悶々していた。だいぶ貯めこんだもんだ。

 ってことで思いついたんだ。

 よし、メイドリフレに行こう、とね。

 否、今、あっさりと決めたように言ったが、実際にはここに至るまで数多の苦悩が私とアスファルトとタイヤを切りつけている。

 事の起こりはとある平日、仕事中だが、案件がなく、やべぇマジでやることないじゃん、とか思ってる優雅な午後を過ごしている時だった。

 刺激が足りねぇな、と、人生における刺激ってやつがよぉ、と思ったわけである。

 人間誰しも、こういう感情を年に数回は抱くものではないだろうか?そして、抱いた場合の解消方法も長く生きてりゃ持っているのではないだろうか?

 私の場合、その方法というのは一人旅行だった。宿だけ取って、目的を決めずに旅行に行くのである。

 だが、現時点でそれは封じ手だった。私には良識がある。そして、明日死んでもいいと思って生きている私ではあるが、代わりに死ぬ直前まで元気であることを願っている人間であった。

 だから、「流石に今、旅行行くってのはねぇな」と考えたのである。

 となるとドナルド、このストレスのやり場はどこにもなくなるという噂、クシュンッ。

 じゃあ、代わりに何かね、今まで経験したことないことをやってみようと思ったわけよ。

 で、だ。私の中で選択肢にふと上がったのがレンタル彼女だった。

 理由としては、顧客があまりにも舐められたビジネスだと感じたから。(※これは個人の偏見であり、レンタル彼女ビジネスに従事している方を不当に貶めることを趣旨とした発言ではございません)

 なんだよ、女の子と会って数時間いるだけで金が搾り取られる仕組みって。「ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえぞ」を体現したようなシステムに非常に興味を持った。

 しかし、ここで私は大きな挫折を味わうことになる。

 なんと、このレンタル彼女とかいうシステム、どのサイトを見ても「個人で彼女さんと連絡を取り合ってスケジュールを合わせてから予約をしてね」って書いてあるのだ。

 はぁあああああああああああああああああああああ??????

 マジで顧客、舐めてんのかてめぇ、大金せしめる上に、なんで顧客がそんなしちめんどくせぇ真似せにゃならんのだ!どこまでもとことん客を下に見たシステムだな、おい。

 とまぁ、思ったわけですが、これって視点を変えると可愛い女の子とまずは無料でチャットできる、ということもビジネスの一環として取り入れている、ってことなんですよね。はぁん、なるほどね。

 だけどさ?運営くん?君達は今までの人生で彼女がいなかった人間がどういう人間なのかって知ってるのかな?継続的なコミュニケーションが嫌いなんだよ?意味のない連絡の取り合いができないんだよ?

 そう、実は私、お恥ずかしながらそういう一派の端くれに所属しておりまして、まぁね、自分から連絡するなんてとんでもない。

 なんで、俺様から連絡しなきゃなんねぇんだ。相手が興味持ってんなら相手だって連絡してくんだろ?のスタンスで生きてきたのでこういうことはさっぱり。

 もう大っ嫌い!

 つまるところ、このビジネスがそもそも、彼女がいたことがいないような我々敗北者に向けたサービスではなく、普段から他人と連絡を取ることが九でないような優秀な遺伝子をお持ちの方々に向けたサービスだったというわけだ。知らない人に「ねぇ明日暇?」とかぜってぇ聞かねぇもん。あいつらすげぇわ。ハードル高すぎるわ。

 ということで泣く泣く、レンタル彼女という選択肢を諦めたわけである。コミュ症故に。やってられっか!顧客舐めんな!ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!

 さ、選択肢が一つ潰れたところで次の類似製品を見ていこうではないか。

 次に思いついたのがメイド喫茶である。私はこれまでの人生でメイド喫茶に行ったことがない。つまり、未だにメイドというものの実在を信じていないのだ。

 でも、一人でメイド喫茶行くのって難しくないか?特にメイドさんに興味があるわけでもないのに?

 と、思考を再構築した結果、辿りついたのがメイドリフレである。

 いや、実はまだ辿りついていない。

 メイドリフレのシステムを見てみると、まぁああああああああた予約だよ。やめてくれよ。もうこんな世界でぼかぁ生きてけないよ。電話予約とかあるし、絶対無理、電話ってのは人間の生み出した最低最悪の発明だよね、髪を切る為の美容院の予約の電話すら怖くて、電話する覚悟を決める為に十分を要するという噂の私ですよ、そんなことできるわけないじゃないですか。私の将来が何かの間違いで億万長者になって俗世との関わりを断って生きることが出来る身分になったら真っ先に携帯電話の契約を切るって決めてっから。いやもうとにかく予約の不要な店ですよ、予約しなくていい店。あるでしょ?あれよ?ったくよぉ、

 あった。

 あったあった。予約せずに入れそうな店。なんて顧客フレンドリーな店なんだ。愛してる。私、メイドさん大好き!

 はい、長くかかりましたが、やっとメイドリフレに辿りつけましたね。

 ということで私は上司に進言した。

「あの、今週か来週あたりで平日に1日休みをいただきたいんですが」

 そう、混み合う休日には絶対に行きたくなかったので、あろうことか、私はここで有休を使用しようとしたわけである。まぁ今、皆さんも有休余ってるでしょう?

 そして、この言い回しが巧妙なのである。「緊急性のない」「平日」という要素をアピールすることで言外に「平日にしか行くことができない役所的な場所に行く必要があるから休みが欲しい」的なニュアンスを醸し出すことができるのだ。これは有休をとる為のテクニックである。皆も是非使ってくれ。

 ちなみに、弊職場で「〇月××日にやんごとなき理由があって絶対に休まないといけないんですが」と言って休みを取ろうとすると「ポケモン?」と言って一瞬でバレる。これが日頃の行いってやつだ。

 無事、有休を取得した私は当日、メイドリフレの開店時間に合わせて家を出た。

 そもそも、メイド”リフレ”というのは一体なんなのだろうか?簡単に調べてみた結果、こういうことらしい。

リフレーーー3ターンの間、味方に対する物理攻撃を半減する状態にする。

 なるほどね。

 いかがわしい店じゃないらしいっすよ。

 と、なんだかんだしている内にお店に辿りつき……辿りつき……え?どこにあるの?グーグルマップ的にはここだけど、どう見てもマンションがあるだけなんですが……看板の類もないし……え?本当にここなんです?

 私はとりあえず、マンションを素通りしてみた。

 でも、やっぱりあそこだよなぁ。

 しばらく歩いて、私は諦めたようにUターンをし、再び、マンションへと辿りつき、中に入ってみる。エントランスで止められるタイプのマンションではなさそうだ。

 私はビクビクしながら二階への階段を昇った。すると、あった。メイドリフレが。マンションの一室に。

 やべぇ。

 なんかすっげぇワクワクしてきた!

 マンションの一室でやってるとかいうアングラな感じ、なんかワクワクしない?するする!

 しかし、私はまだ知らない……この今のワクワクが今日のワクワクの頂点であったことを。

 私は意を決して、平静を装い、「こんな店入るの全然恥ずかしくないし、慣れてますけど?」って顔をして門を潜った。

「お帰りなさいませ、御主人様」

 なんか噂で聞いたことあるやつじゃん。

「ご予約はありますか?」

 ねぇよ、んなもん。てめぇは今まで、何を読んでたんだ。

「今、メイドさんが全員埋まってまして、ご案内できないんですが」

 こうして、私が意を決して、ストレス発散を試みた一大プロジェクト突撃!冥途の土産奪還計画!刺激が欲しけりゃ墓になれ篇!は終幕を迎えたのである。なんもまぁ、尻切れトンボな感じがするが、現実ってのはいつもこんなものなのね。

 ~完~

 ……。

「17時からならご案内できるんですが、それでもよろしいですか」

「はい!それでお願いします!」

「じゃあ、簡単にお店のシステムを説明させていただきますね」

 そういって、我が家に上がる私。マンションの洗面所で手を洗うように指示される。普通の洗面所だ。すっげぇワクワクする。

 その後、ボクは邪魔なので家から追い出されてしまった。嫁に「休日はお父さんがいて邪魔だわぁ」と言われ、平日は家にいたくないからと残業をするおっさんになった気分だ。

 私はトボトボと街を彷徨い歩き、自宅へと帰った。

 この間、なんと5分である。

 そう、実は黙っていたが、私の家からメイドリフレまで徒歩5分の距離である。

 そっからなんやかんやで2時間ほど時間を潰し、再び、メイドリフレへ向かう。

 帰ってきたぞ。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 おう、くるしゅうない、くるしゅうない。

 勝手知ったる我が洗面所でお手々を洗う。あれ?さっきはお手拭きタオルもなかったのに、今度はあるぞ?

「じゃあ早速、施術に入らせていただきますね、隣のお部屋へどうぞ」

 と言われるがままに移動する私。

 今回、選んだコースは1時間コースの背中と手。どうやら、本当にマッサージ的なことをしてくれる店らしい。知らんかった。

「それでは背中からやっていくのでうつ伏せになってください」

 そう言ってベッドにうつ伏せになるとそこには呼吸穴が開いている、いや、心なしか大きいような……。

「それでは肩からやっていきますね」

 と言ってメイドさんが肩をもみ始めるとなんと!呼吸穴から!

 おひざが見える!

 メイドさんの膝が見えるのだ!なるほどなるほどこれはこれはって痛い痛い痛い痛い、ちょっと待っておひざどころじゃないんですが痛い痛い。

「お客さん、めちゃくちゃ肩凝ってますね」

 さっきまでご主人様だったじゃねぇか、設定守れよ、社員教育どうなってんだこら。

「もう肩に鉄板入ってんじゃないかってくらい硬いですよ。ここ半年できた客の中で一番凝ってますよ」

 あーーーーーなんかそれ、よくTwitterとかで神絵師とか神漫画家とかが言われてるやつ!よくみかけるやつ!

 しかし、私は神絵師でもなんでもない、底辺字書きなのでふひひ、はぁ……いてぇ。

「いやぁ実は同人誌とかやってまして」

「あ、そうなんですか、道理で」

 道理で、じゃねえぞ、痛いって、お前、適当に力任せに肩揉んでんじゃねえだろうな?

 こうしておひざを堪能することが出来ず哀れ私が気付いた時には段階は次へと移っていた。ひざ……。

「次は腰のあたりをやっていきますね」

 うつ伏せになってるからなんかわからんが、腕を太もも的な物の上に乗せられてる気がせんでもないような気がする。メイド服の生地が厚すぎて布の感触しかしない。

「普通、今、いっぱいでって言われると皆諦めるんですよ。また来てくれるのは珍しいんです」

 そりゃそうだろうな。普通の人は2時間もどこかで時間を潰してまた来ようとは思わないもんな。

「ボクんち、ここから徒歩5分なんで、一旦、家に帰ったんですよ」

「近いですねぇ」

 とりあえず、わかってきたことはこのお姉さん、マッサージの腕はさておき、トークはお上手である。アイドルにハマっているし、自分で絵を描いたりもするタイプのオタクらしい。絵が描ける人ってすげーな。

 ボクも仕方がないので個人情報がバレない程度に最近の課金システムがどーだの、楽して稼ぎたいだの、億万長者になりたいだの、賓頭盧尊者を信仰しているだの喋ったような気がする。

 なんかね、こう金を払ってるのに、払ってる方が話をしないといけないって損した気分になりますよね。ボクは口下手なのであんまり喋ることがないんですよ。

「じゃあ、次は手をやっていきますね」

 といって、やっとうつ伏せから解放される。ちなみに、凝りから解放された感は特にない。

 お姉さんが手にオイルを塗ってくれる。

 さぁ、いよいよ、いよいよボクは今からお姉さんと、いや、若い女性とおててを繋ぐのだ。(ここまでの情報でこのお姉さんはメイドではなく、どっかの大学生だってことがわかっています。夢を壊すな!)

 これはこのサービスのクライマックスと言っても過言ではないのではないだろうか。ここまでのストーリーには特に起伏もなく、ただただボクの肩が痛かったという事実しか判明していない。ある意味刺激だが。

 しかし、しかしですよ、こうやってね、おておてtおてててtふひひ、

「じゃあ、やっていきますねぇ」

 ボクの右手にお姉さんの右手が今まさに恋人繋ぎで絡ませられようとしている。

 さぁ、ここでクイズです!ババン!

 このあと、ボクはお姉さんの手に対して、どのような感想を抱くでしょう?

 チッチッチッチッ、ぽーん!

 さぁ、それでは正解VTRスタート!

 ボクの右手にお姉さんの右手が今まさに恋人繋ぎ……になった!

 手だな。

 うん、手だな。

 他人の手がボクの手に絡まりついとるわ。

「お客さん、手があったかいですね」

「心が冷たいから、手があったかいんですよ」

 うーん、普通の手だな。

 まぁ、そりゃそうですよ。人の手には別に何か特別な器官が付いてるわけじゃないんで、手は手ですよ。繋いだからって何もない。すっごい無。

 だいたいね、ボクの最後に繋いだ手の情報ってのが姪(1歳、かわいい、天使)なわけですよ。姪の手にそんじょそこらの女が勝てるわけないんですよ。姪はかわいいんですよ、やわらかいんですよ、赤ちゃん舐めるな。

 その後、まぁよくわからん感じで手をぬるぬるさせられてだらだらと世間話をして、

「マッサージと癒しを求めてきてくださるお客さんが結構多くて」

 というお客さんを内心物凄く馬鹿にしながら、なんかアフターサービスでコーヒーを啜って、街の喧騒へと消えていった。

 まぁ、こんなもんか。

 マッサージもしてもらったわけだし、まぁこんなもんか。

 なんだろう、この期待をしてしまった分、大したことなかった感がある、ああ、コメ牛を食べたときにもこんな感情を抱いた気がする、そんな感じの釈然としなさで、家に着いたのだった。

 なんか、どうしても物珍しいことがしたくなったらまた行くかもしれないが、積極的に行くみたいなリピーターになることは間違いなくないだろうな、とぼんやりと考えながら、ボクは眠りに着いた。

 翌日。

 肩が痛い!肩が痛いんだけど!あっ、馬鹿、あいつ、やっぱり適当に揉みやがったな!完全に揉み返しじゃねぇか!すっげぇ痛い!昨日よりも痛い!もうぜってぇいかねぇ!メイドリフレなんて懲り懲りだ!もう二度と素人に肩なんて触らせねぇ!

 揉み返しはさらに翌日まで続きましたとさ、ちゃんちゃん。

※なびるなは最近、毎日に刺激を求めています。
 何か、私にやって欲しいことがありましたらご意見送ってください!どしどしどうぞ!
 あとは面倒なやり取りのいらないレンタル彼女情報とか、「いや、本当のメイドリフレはそんなもんじゃない」などといった腕の立つメイドリフレ情報でもなんでも、まぁボクの金が尽きない範囲でお待ちしております。

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