#なびるな世界一周 へ行く〜第13話ロサンゼルス編〜

#なびるな世界一周

 絶叫系というものをご存知だろうか?

 遊園地にあるアレだ。ジェットコースターとかそういうアレだ。

 

 はじめに断っておこう。

 私は絶叫系が苦手だ。どうしても駄目というわけではないが、考えてみりゃこんなもんどうしても乗らないといけない事態になることはないので苦手だったら乗らない。

 あまりにも自明。

 

 さて、ここカルフォルニアには世界一有名と言っても過言ではない遊園地、ディズニーランドがある。

 同伴者がディズニーガチ勢を自称しているので私ももちろん付いていった。一番のお目当てはスター・ウォーズだ。

 

 入場に際し、360°カメラに着いている棒が持ち込めないと言われ、送迎の車はもういなくなったので旅の終盤にして泣く泣くトラッシュを宣言したが、まぁこれは些事だ。(帰ったらアマゾンのほしいものリストにでもこっそり入れておこうかな)

 さて、ここで同伴者がとあることを言った。

「スマホの予備バッテリーを持ってくるのを忘れた」

 ご存知の通り同伴者は重度のスマホ依存症であり、またスマホの電池がだいぶへたってきているので普段のペースでスマホを使用した場合、絶対に閉園まで電池は持たない。

 そもそもここ、ディズニーランドではスマホのアプリを使って入場からマップ確認、ファストパスの購入までなんでもするので、スマホの使用は必須だ。

 

 さらに悪い条件を加えると同伴者のスマホは壊れかけている。液晶のタッチにエラーがあるのかゴーストタッチが頻繁に発生し、まともに画面操作ができない時間が多々ある。

 まさに満身創痍のスマホだ。

 そんなスマホにディズニーランドを任せることはできないので、アプリの使用は私のスマホで行うことにした。

 

 しかし、残念ながら私はディズニーランドガチ勢ではない。ディズニーランドというのは不思議なもので、その魔に取り憑かれているようにガチ勢の者共は自分の行きたいように縦横無尽にランド内を駆け巡り、そこまでの熱意を持っていないのに付いてきてしまった哀れな子羊たちは言われるがままに従うしかない。できることは精々「こ……このアトラクションだけは行きたいんですけど……」「アッコノエイガミタコトアル……カモ」とかいうくらいなものだ。

 

 とりあえずスター・ウォーズ周りの予約だけして……とかしているとさらに不幸が重なった。

 同伴者がスマホを地面に落としたのだ。あの満身創痍のスマホを。

 ……まぁ別に珍しいことでもなんでもないんですけど。彼、一日三回くらいスマホを地面に叩きつけてるから。そんなことしてるからスマホが壊れるんだよ、壊れて当然だよ。

 しかし、今回は落としただけでは済まなかった。

 落とした衝撃でSIMカードの接触がおかしくなったのだ。

 つまり、電池がへたってて、ゴーストタッチが頻発して、ネットに繋げない、満身創痍を超えた死体が爆誕したのである。

 死体なのに爆誕って表現、なんかおかしいね、まぁいいか。

 

 するとどうなるかって?

 ディズニーランドの全権を任せられているのはボクのスマホ。

 でも、それはディズニーランドガチ勢が握っていないと、何の意味もなさない。

 つまり、没収されたのだ。ボクのスマホが。

 没収は言い過ぎだったかもしれない、でもディズニーランドいる時間の半分はニコライさんにボクのスマホが奪われていた。

 

 次に行くアトラクションを決めるのはニコライさんで、ボクはマップも確認できず、次のアトラクションが何なのかも伝えられず、仔鴨のように付いていくしかない事態が発生した。

 しかし、ディズニーランドはすごいね。

 突然、行って「乗るぞ!」と言われたアトラクションがどれもおもしろいんだもの。

 元ネタ知らないアトラクションもたくさんあったけど、どれも楽しめたもの。一つ一つのクオリティがとても高い、こりゃハマる人がいるわけだよ。

 

「次はこれに乗るよ」

 そういって何も考えないで生きるのが一番楽だと言われて生きてきたボクが次のアトラクションの待機列で、

———どうしても駄目というわけではないが、考えてみりゃこんなもんどうしても乗らないといけない事態になることはないので苦手だったら乗らない。

 

 そこには、げにも恐ろしいアトラクション、『Mr.インクレディブル』をテーマにしたローラーコースター、インクレディコースターの姿があったのだ。

 

 他人にスマホを渡すとどうなるのか、それは生殺与奪の権がすべて奪われるということ。

 ボクに決定権などない。

 

「事前に相談すると嫌がると思って勝手に予約取りました」

 

 なるほど、ボクのことをよく知っているじゃないか。

 

「別に乗らないっていうんなら乗らなくてもいいけど、せっかく予約したし、乗らないともったいないよ」

 

 なるほど、ボクのことをよく知っているじゃないか。

 ボクは悲しいほどに小市民なので、損をすることに関して非常に敏感だ。今、ここでこのアトラクションに乗らないということは本来、このアトラクションに乗ることを込みで考えられている入園料からマイナスが発生する。つまり、乗らないと乗らない分、単純に損をするのである。

 そして、ボクは知っている。

 東京ディズニーランドで(とは言っても最後に行ったのは5年くらい前だが)経験している。ディズニーランドの絶叫系はボクがギリ耐えられるレベルで設計されている、と。

 

 一瞬の内に、様々な思惑と策略、損得勘定が交差し、

「乗る」

 とボクは宣言していた。

 

 まぁね、絶叫系いうたかてね、所詮、人が作ったもんっすよ、人が作っている以上、設計上のルールってもんがあって、まず、ジェットコースターってのはチチチチチとゆっくり坂を上がって行くでしょ?そうして位置エネルギーを利用してガーッと加速して、

 

「OK?3,2,1,GO!」

 

 待て待て話が違うぞ、ルール破りじゃないか。

 こともあろうにこのジェットコースター、坂ではなくスタート直後の平面で強引にモーターかなんかを回して超加速しやがった。はじめから最高潮だ。

 馬鹿じゃないの???ちがうじゃん!!!ジェットコースターってそういうのじゃないじゃん、ちゃんと人と世界とが結んだ約束事があって、それを守ってこそがアトラクションでしょ?それを破るとかラグナロクが始まるよ?

 

 初っ端から心の準備ができる前に、絶叫の渦に叩き込まれたボクは酷い声で悲鳴を上げていたらしい(談・隣の席の人)。

 もうここからは負け戦ですよ、何が来ても怖い。頼むから早く終わってくれと祈りながらも、初っ端のズルはともかくとしても、普通にジェットコースターとしても怖い。怖いったら怖い。

 

 アトラクション終了後、ボクは地面を踏んでいる感覚がなかった。

 おのれ、インレディブルめ、今後の人生で、てめぇの映画、ぜってぇ見てやらねえからな……。

 

 このあと、翌日もユニバーサルスタジオハリウッドに赴き、インクレディブルよりも怖いアトラクションはもうないでしょ?という言葉に騙され続けた結果、夕方ぐらいから身体の内側と外側の圧のバランスがおかしくなったような、今までの旅ではなかった異様な疲れを感じ、ニコライさんを残して先にホテルに戻ってダウンしました、とさ。

 

 それは次回、最終回?でお会いしましょう。

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