バレエデビューした話

 皆さんはバレエの舞台を見たことがあるだろうか?
 まぁ私もないと言った方が正しいレベルではあるのだけれど……、ダンスダンスダンスールと昴の知識しか正直、バレエについて知らない。

 そんな私ではあるが、愛する愛する世界一かわいい姪が実はバレエを習っており、どうやら、バレエの発表会というのが年に一度あるらしい。

 ふん、そんなくだらない行事の為にわざわざ呼び出さないでほしい、実家に帰るのは年末年始だけで十分だろう?、高い金と時間をかけてまで、そんな子どものお遊戯を見てやるほど私だって暇じゃあない、調子に乗るんじゃない、姪が来てほしいと言えば、なんでもいくような馬鹿叔父だと思っていたとしたら大きな勘違いであるまったく信じられない、これだから子どもってヤツはダメなんだ、いつだって世界の中心は自分だと思い込んで周りを振り回すことを毛ほども顧みない、大体、そんなことでいちいち甘やかしていたら碌な大人にならないだろう、ここは私が身をもって世間の厳しさというヤツを、

 ということで新幹線に飛び乗り実家に帰ったわけです。

 せっかくだからと前日に帰ったわけですが、姪はもう朝からリハーサルでてんてこ舞いらしく、さらには人手が足りないからと義姉も一緒に舞台に出るらしい。
 しかたがないので、愛する愛する世界一かわいい甥と公園でまつぼっくりを拾って時間を過ごす訳でした。楽しい。

 さて、来たる発表会当日。
 我が実家にはそうそうたるメンバーが集まっていた。

 まずは兄と甥、そして母親。ここまでは当然。
 姪から見て母方の祖母(つまり私とは血縁無し)。まぁこれもわかる。
 そして弟。うーん、私が来てしまっているわけだし、弟は県内に住んでるし、当然っちゃ当然。
 最後に、3時間かけて車で駆け付けた私の叔母、姪にとっては大叔母。

 ……人のことは何も言えないが、そうそうたるメンバーである。

 叔母曰く、先日もらった手紙に「はっぴょうかいみにきてね、○○(←叔母の名前)ちゃんだーいすき」と書かれていたので行かざるを得なかった、いかない理由が見つからなかった、とのこと。完璧な理論武装だ。それは仕方ない。来ない理由がない。

 ということでややこしいので家系図にするとこうなる。

 複雑だ。
 やはり、祖父が死んでるのに大叔母が登場してしまっているあたりが複雑さを加速させている。
 これが姪と甥を中心としたアベンジャーズの結成秘話である。

 そして、アベンジャーズは会場へとアッセンブルするのである。

 

 さて、ここまで黙っていたのであるが、義姉より私宛に謎のミッションが課せられていた。

「発表会のとき、玉虫色のスーツを持って来てください」

 発表会のとき、玉虫色のスーツを持って来てください???

 玉虫色のスーツといえば、我々が擦りに擦り倒した結果、すでに味がしなくなっているあの玉虫色のスーツのことであろうか?
 あまりにも着過ぎてそろそろ飽きてきたので、次のファッションへそろそろ移行したいと考えているあの玉虫色のスーツのことだろうか?

 一体、玉虫色のスーツとバレエに何の関係が?

 ま、まぁ円満な親戚関係を構築する為に、義姉には逆らわない方がよいだろう。ボクだって世間体ぐらい気にするんだ!

 

 ほんなわけで、トートバックにスーツを忍ばせて会場に来たボクだったのだが、受付の待機列で答えを知る。

『本日の舞台の第二幕では客席の方にご協力いただくことがあります』

 なるほどねぇ~~~~。

 第二幕ね~~~~、おかのした!よくわからんけど完璧に理解したぜ!
 よくわからんけど、バレエなのになぜかペンライトが配布されたぜ!第三幕で使うらしいぜ!今どきって感じ!

 さて、席に座り、かわいいかわいい姪の活躍をみてやるとするか。
 とはいったもののまだ姪も小さいので役柄としては端役も端役、ちっちゃい動物の役。

 そんなものみたところで、おもしろくもなんともn、我々アベンジャーズは端役が舞台上に顔を出すだけで大興奮!
 やれ、あそこに姪ちゃんが出てきた、ほれ、あそこだけ動きがズレてる、一挙手一投足に大盛り上がりである。
 なぜならもしかしてお気付きかもしれないがこのアベンジャーズ、姪馬鹿しか集まっていない。
 もう話の筋もわからなくなるくらいに姪のことしか見ていないのである。

 しかし、姪も去年までに比べると格段に進化している。
 自分の習った振付を忠実に守り、大きな身振り手振りで、他の子が釣られて間違えている振りも、間違えずにしっかり演じ切っている。
 素晴らしいぞ、これは将来大物になる。
 この先、例えバレエを続けなかったとしても、ここで得た経験は、きっとこれからの君の人生の大きな糧となるのだ。
 叔父としても誇らしいよ。いやぁ、楽しみだ。

 

 さて、二幕目前の休憩中、ボクは廊下に出るといそいそとトートバックの中から玉虫色のスーツを取り出し着替える。
 あのスーツ、腰回りがやたらでかい(なびるなの腰が細いだけだって?だまらっしゃい)ので、普通にズボンの上から着れてしまうので良いところである。本当に良いところか?

 着替えて、自席に戻ると隣に座っていた叔母が驚愕の顔をしている。
 はい、持ってきていることは黙ってました。別に言うことでもないかなって、思って……。

 七色に輝くボクの隣に座る哀れなアベンジャーズを余所に、第二幕が開幕する。
 するとここでアナウンスが流れる。

『第二幕では、○○役の二人がダンスの相手を探しに客席に降りてきます。舞台に上がってもよいというお客様はペンライトでアピールをしてお知らせください』

 舞台に上がっtいやここではない、大事なのはここじゃない。

 二人が???

 二人しかダンスの相手を探さないの???

 にわかに危険な香りが漂い始めたぞ、え?二人?数百人は観客がいそうな、この会場内で二人?競争率高すぎない?

 ここまでのボクのメンタルは、ええ~舞台に上がっちゃうのか~照れるなぁ~~どうしよっかなぁ~~くらいなものだったのだが、これは話が違う。

 だって、もし、ダンスの相手役として選ばれなかったとしたら、レインボーのスーツでバレエを見に来た変なおっさんになってしまうんですよ???やばくない???

 急遽、なにがなんでも相手役に選ばれなければいけなくなってしまった。

 そんな決意を改めて誓いながらも第二幕も進んでいく。
 第二幕には義姉も登場していた。ヤツが諸悪の根源である。

 いや、それにしても義姉の出番多いな、姪よりも出番が多いんじゃないか?人手が足りずに出るって聞いていたので、ちょい役だと思ってた。こんなに出番があるとは。
 昔やっていたとは聞いていたけど、こんなに上手だったんですねぇ~、やっぱり経験者ってのは年を重ねても身体が動くもんなんだなぁ。

 などと現実逃避をしていたところ、『それでは、今から二人が相手役を探しに客席に降りていきます!』だとさ。

 

 こっちはもう必死である。
 一先ず、アベンジャーズ全員からペンライトをひったくるとすべてを振ってアピールする。綺麗なおべべも見えなければ意味がないからね。

 男性のバレエダンサーが舞台から降りると通路を歩いてきて……、

 

 目と目が逢う~~~瞬間好きだと気付~いた~~

 

 お兄さんに手を引かれ、通路を歩く。
 堂々たる所作で観客の方々に手を振りながら、舞台へ向かうボク。
 さも当然だと言わんばかりに。

 そして、舞台に上がると、配置はあちらだと行き先を指し示す義姉。
 笑いを堪えている。

 コイツが諸悪の根源である。

 配置につくとお兄さんから質問が。

「何も動きませんか?それとも少し動きますか?」

 動きますかって言われたって、お前、こっちはバレエはおろか盆踊りだって危ういレベルだってのに、いきなり舞台上に担ぎ上げられて踊れなんて

「はい!動きます!」

 人生、楽な方より困難な道である。
 新たな挑戦の先にしか未来は広がっていないのだ。

「わかりました、ではこうやって左足から順番に8回足を出してください。練習しますよ、1、2、ちがいます、左足からです。はい、1、2、3、4、5、6、7、8、ぐるっと回ってポーズ。はい、こんな感じです。もう一回やりますよ、1、2、3、あ、もう時間ですね、本番いきますよ」

 おいおい、まてまてまて心の準備が、できてな、はい、せーの、1、2、3、4、5、6、7、8、ぐるっと回ってポーズ!!!!

 ふぅ、なんとかやり遂げたぜ。
 多大なる達成感と疲労感を帯びて、手を振りながら自席へ戻る。
 なんで、こいつただの客の癖に手を振りながら立ち去るんだ?と会場にいる多くの人が思ったであろう。ボクもそう思う。

 席に着くとスーツのジャケットを脱ぎ、あとは観客としてバレエを楽しみました。専門的なことはよくわからないし、姪と義姉しか見ていないので何がすごいのかもよくわからんけど、楽しかったです!

 

 人生、なにが起こるかわからない。
 とはいえ、ボクももういい歳したおじさんなので、せっかくのおじさんを生きるのであれば、オモシロおじさんになっていきたいと思っているわけですよ。

 かの偉人もオモシロおじさんになる為には経験と積み重ねが必要だと言っていた。非常に感銘を受けたので、その言葉に従い、日々精進していく所存である。
 皆々様におきましても現状に胡坐をかかず、日々おもしろさというものを追求して生きてみてはいかがだろうか?

 以上が、ボクのバレエデビュー(バレエ舞台デビュー)の全貌でした。
 いやぁ、本当に選んでもらえてよかった、マジで、本当に。

↑かの偉人

 

 

以下、反響。

母方の祖母:
※目が悪いため、一人だけ離れて最前席座っていた。
「ずいぶん派手な格好の人がいて、とんでもない人もいるもんだなと思ったんだけど、なびちゃんだったのね。気付かなかった」
 どうやら、ボクだと気付かず、ヤバいやつがいるなぁ、と思ってたらしい。正しい感想。

兄:
「隣の少年が、お前が出ていった瞬間『すげぇファッション』って呟いてた」
 異論なし。

姪:
「終わった後、なびちゃんのことを先生も『あれだれ?』って言ってたよ」
 君の叔父です。

義姉:
「玉虫色のスーツで来ることは誰にも言っていなかったので楽屋で、あれは私の義弟ですと紹介しておきました」
 これが世に蔓延る邪悪。

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